24 エピソード・ゼロ
△タガキ・タケミチ視点
放送で呼び出された俺は、人気の少なくなった本部隊舎の廊下を歩いていた。
伝言ゲームみたいなシステムの軍隊で、一昔前まではあり得なかったが、今では直接司令から命令を出される立場にある。
ギャグみたいなレッドカーペットの敷いてある司令室前の廊下に辿り着くと、途中で不穏な連中と出会した。
全身フル武装でフェイスマスクをし、部隊章も階級章もつけていない、明らかに猛者的集団だった。
身分を隠していることから、恐らく、特殊部隊か何かだろう。それが何故、こんな辺境の基地の本部隊舎廊下でたむろしているのだろうか?
彼らは俺を見るなり姿勢を正し、敬礼するでもなく銃を携えたまま静観していた。
「まだ君らの様な者が残っていて、心強いよ」
俺は勇ましい独り言を吐き、司令室の前に立つ。
ノックを三回。入れ、という言葉を受けて室内へと入る。
「タガキ軍曹、入ります」
司令室内では、司令が卓上で眉を顰めながら書類を眺めていた。
俺は基本教練を駆使して司令の机の前へと行く。敬礼をしようとすると。
「タガキ軍曹、敬礼省略。休め。本題に入る」
「はい」
司令は深いため息を吐きながら私を見た。
当然だろう、軍に残ったのは勇ましいピチピチの幹部ではなく、定年間近の窓際軍曹なんだからな。
しかし、司令は予想を斜め行く質問をしてきた。
「……貴官は落ちついているな。何か秘訣でもあるのか?」
「秘訣、でありますか?」
これは恐らく試されている。ファーストコンタクトで気に入られる様な発言は避けるべきである。
何故ならその分面倒が増えるからだ。
適当に濁して終わりにしよう。
「生憎、司令にお話しできる様な秘訣はございません」
「構わん、話してみろ」
まだ食い下がってくるか。
なら、相手にしたく無い危険人物設定でいこう。
俺は、危ない笑みを浮かべながら、少し興奮気味と言った風を装って口を開いた。
「自分は生きる喜びと楽しみをエイリアン共のおかげで知りました。その恩返しの為、軍に残留中であります」
一見すれば戦闘狂な発言だ。エイリアンと戦う事を望んでいたと受け取れる言葉だからな。
狙い通り、司令は少し気押された様に顔を顰めた。
「なるほど、貴官は生まれる時代を間違えたクチか?」
「いえ、間違えなかった様です」
その言葉に司令は破顔する。
一瞬、動揺した。まずいな、気に入られたか?
おかしいな……軍内部でさえ、トリガーハッピーは嫌われる傾向にあるのに。
「勇ましい事だ。まあ、名誉ではある。我が軍創設から二百年余り、最後の節目をこの身で迎えれるのだからな」
なるほど、昨今の情勢をそういう見方をしているのか。
このおっさんは名誉の為に制服を着ているのだ。そんなお馬鹿な人間はむしろ、名誉が制服を着ていると言っても遜色ない。私が忌避すべき第一位という事がわかった。
とりあえずそれが知れただけ、危険な発言をした価値があったというものだ。
「そんな勇ましい君には、辞令を持ってきた」
「辞令?」
「おめでとう、タガキ中佐。我が軍初の七階級昇任だ」
な、七階級昇任!? 一介の軍曹がいきなり中佐!?
いや……落ち着け。悪趣味な冗談だろう。ここは話を合わせておくか。
「流石にキサマも驚いた様だな」
「そりゃあね……驚きますよ。一介の軍曹が、中佐ですから」
冗談だと思ったが、それ以降
会社で言えば平から専務になるくらい異例だ。本当に私の様な人間を中佐にするつもりなら、この組織は既に破綻している事が見てとれる。
いや、待てよ。あるいは……。
「何か特別な任務が付与されるのですか?」
もしそうなら、今が辞め時だ。昇進したとしても、特別部隊なんて良くわからん貧乏クジ、死んでもご免だ。窓際軍曹を体よくこの世からおっぱ払う算段だろう。
最悪なことに、司令は満面の笑みで頷いていた。
「話が早くて助かる。極めて重要な秘密任務だ。君の中隊は今後、特別中隊と位置付けて行動してもらう
「第一〇二歩兵中隊がですか?」
「もちろん。名称も改めることになる。その中隊名だが——」
勿体ぶる様に少し間を開けた司令は、値踏みするような冷たい視線を浮かべながら言った。
「電光、だ」
「デンコウ……ですか?」
「ああ」
思案に耽る間も無かった。その時、司令室の扉に小さなノックが響いたのだ。
「君の部下となる者が到着したようだ。どうぞ入ってもらおう——ミシマ准尉!」
「はい」
返事を返したのは幼い少女の声音だった。
当然、聞き違いだと思った。こんな辺鄙な軍基地に、しかも幼い少女が司令に呼ばれて登場する訳がない。
しかし、扉が開かれて、その姿を見た俺は——。
「お初にお目にかかります、ミシマ准尉であります」
呆然としていた。
現れたのは、眠そうな目に、無感情の顔を張り付けた幼い少女だった。