第二十一話 階層

△タガキ・フミヤ視点  考えうる限り、最悪の事態が起きていた。  候補生達の反乱だ。独断でエルフライドへと乗り込み、コックピットに立てこもっていた。 「おい! 〝キー〟が無いのになんでコックピットが開いたんだ?」  俺は怒声に近い声色でエンジニアにがなり立てた。  本来、エルフライドは〝キー〟と呼ばれる赤い結晶が無ければコックピットを開くことも、動かすことも出来ない。  候補生達が体育館に向かっていく様子を見て、エマ達は「大丈夫です、〝キー〟が無ければ絶対に候補生達がエルフライドを動かすことは出来ません」と話していた。  実際は体育館に到着すると、ほかの候補生達は既にエルフライドに乗り込み、コックピットは固く閉じられていた。  遅れて乗り込もうとしたキノトイも、ユタの説得もむなしく、そのまま乗り込んでしまった。  今は沈黙を保っているが、エルフライドがいつ動き出すか全く判別がつかなかった。 「分かりませんよ!? 金庫の〝キー〟を確認しましたが、一つも持ちだされていなかったんです! 本来はコックピットを開ける事もままならないハズですよ!」    エマが事務所から飛び出てきて、トビーとライアンにネックレス式の〝キー〟を放った。  三人はそれぞれ走って行き、慌ててエルフライドへとそれを翳かざす。 「クソッ! 内部に人が入ってたら開かないのか!」  しかし、エルフライドは開かなかった。  俺はその場で呆然と立ち尽くすベツガイを見やる。 「何か隠していたことはあるか?」 「——無いとは言えませんが、エンジニアの言う通りです。〝キー〟が無ければエルフライドは操縦できないし、コックピットも開きません」  どういうことだ?  何故——彼女らはエルフライドに乗れている?  どういうカラクリで——。 「指揮官! 避けて!」  一人思案していると、唐突にシノザキに突き飛ばされた。床に転がるやいなや、俺が立っていた場所にエルフライドが突っ込んできた。  頑丈そうな床が簡単にへしゃげたのを見て、ゾッとした。  俺を——殺そうとしたのか?   いや、違う。エルフライドは天井からチェーンで繋がれていた。単にエルフライドが繋がれていたチェーンを引きちぎった時に、勢い余って倒れてきただけか。  今はどういう訳かエルフライドを跪かせるほどチェーンは伸びてしまい、ただエルフライドを繋ぐ鎖としか役を担っていない。  それを全てのエルフライドが鬱陶しそうにブチブチと手で引きちぎっていた。 「うそでしょ——あの滑車ホイストは耐荷重三トンあるのよ、手だけで引きちぎった? どんなパワーよ」    エマ達は信じられない、と頭を抱えていた。  こうなればもう——どうしようもない。 「キノトイ! 聞こえるか!?」    五機のエルフライド達は、俺の言葉にピタリと動きを止めた。 「お前らの気持ちは理解した! 頼む、お前らの安全の為にもおりてきてくれ!」  しかし、無情にも俺の言葉を無視してエルフライド達は立ち上がり、体育館の北側——壁の方向へと移動した。  ドガンッと。エルフライド達は足で壁を破壊し、体育館を出ようとしていた。  あのまま行けば完全に壁は破壊され、外に出て言ってしまうだろう。  しかし——。 「どうして、あんなに手馴れて操縦できる!?」  彼女らは操縦訓練も行っていないハズだ。なのに、どうしてあんなに手足の様に動かせているのだ?  俺の疑問に、ベツガイが返答した。 「〝学習装置〟——エルフライドは乗りさえすれば、だれでも操縦法が脳内にインストールされるんです」 「何——!? お前がそれをキノトイ達に話していたのか!?」 「私は話してません! 彼女らはそれを知らないハズです!」    否定したベツガイに複数の疑いの目が向けられたが、彼女は嘘を言っているようにも思えなかった。  どういう事だ?  一体何が起こって——いや、落ち着け。候補生達に常に平常を保てと言った俺が慌ててどうする?  今できることといえば——。   「ベツガイ、すまん——奴らを止めれるか?」  ベツガイは俺の提案を聞き、驚いて顔を上げた。  彼女はこの騒ぎの発端と言っても過言で無い、それに……軍に対する反抗心も兼ね備えている。  だが、ベツガイはキノトイらとは別の思想をもち、行動していた。それに唯一彼女らと違って、エルフライドに乗った経験がある。  今はベツガイ以外に頼れるものはいない。そんな俺の言葉に、ベツガイは俯き、緊張しように額から汗を流していた。 「悪いが、迷っている時間は無い」  俺がそう口にすると、ベツガイは顔を上げた。  「私は——」 「私が乗ります」  そこでシトネが口を挟んできた。  驚きの提案だった。シトネはベツガイと違い、キノトイ達と同郷の——キノトイ達側の人間のはずだ。  その彼女が、キノトイらを止める? 「私は彼女らを止めます。何故なら、彼女らは、私にとって不要なモノではありません。しかし、彼女らがしようとしていることは不要な事です」  俺が以前言った言葉を引用し、初めて彼女が強い意志表示をしている。  眠そうな無機質な目が、若干の感情を帯びているような気がした。 「信用してください」  俺は目を瞑り、思考しようとして——やめた。  今は、彼女らに賭けるほか道は無い。 「たのんだぞ」  俺の言葉に、シトネは頷く事もなく、ゆっくりとエルフライドへと歩み寄って行った。   △三人称視点    体育館内部。そこに断続的に続く破壊音が響いていた。  それを発生させているのは、純白のフォルムの人型兵器——〝エルフライド〟  全部で五機。その兵器は一様に足を振り上げ、容赦なく体育館北側の壁を蹴り続けていた。   『アネちゃん! 壁がもうすぐ壊れる、外に出られるで!』  薄い蛍光だけで明かりが保たれたエルフライドのコックピット内部。そこでは、しきりに搭乗者である少女達によって会話が交わされていた。  ヒノ・セレカの言葉に、キノトイ・アネは力強く返答する。 『みんな、今を逃せばほかは無いわ! 急ぎましょう!』  エルフライドによって発生した壁の亀裂は、やがて障壁としての能力を喪失し、パズルのように崩壊した。  外の世界から目映いばかりの日の光が差し込んでくる。  キノトイ達エルフライドに乗った少女達は、それを救いのように感じていた。  彼女らは自身達が体験した真っ暗な孤児院、そこから抜け出した時のことを思い出したのだ。 『アネ! シトネはどうするの!?』  センザキ・トキヨがキノトイに問いかける。  キノトイは悲痛な面持ちのまま、体育館の内部へと視線を向けていた。 『シトネは……』  シトネ・キリは指揮官と話した後、エルフライドに乗り込むために〝キー〟をエンジニアから受け取っていた。  それを見たキノトイは、ギリッと歯を食い縛っていた。 『私達を止める気だわ。置いていきましょう』  彼女のその言葉に、全員が驚いていた。    『シトネは絶対に仲間を売らないよ!』 『あの子は賢いし……連れてったほうが——』  トキヨとキョウコが抗議する中、セレカが反論した。 『お前ら、迷ってる時間はないんや!』 (そう。議論する時間は無い。私達は向かわなければならない)    キノトイは一人、そんな感想を浮かべていた。   『皆、セレカの言うとおりよ! 急いで!』  キノトイは先導するようにグラウンド方向へと走り出した。ドッスン、ドッスンと超重量のエルフライドが警戒にジョギングをし、砂埃を巻き上げる。  古びた廃校のグラウンドに人型兵器が駆け抜ける姿は、まるで現代アートのように奇抜な光景だった。 『私、夢を見たよ……』  途上で、キョウコが呟くように言った。それに、セレカが反応を示す。 『それは夢やないで、〝深層領域〟や』 『分かってる……確認したかっただけだ』  誰から教わったわけでもなく、その単語を少女達は共有していた。それだけでない、エルフライドにまつわる多くの知識を保有している。空の飛び方や、宇宙にまつわる新事実まで、多岐にわたって、だ。  エルフライドの〝学習装置〟それに、キノトイは畏怖すら覚えていた。  (宇宙人が作ったと聞いて、ようやく納得がいく。以前のバカなままの私なら……その技術の凄まじさにすら気づけなかっただろう)  思考している間に、グラウンドの中央付近までキノトイ達は辿り着いていた。  ここなら飛行しても誰も巻き込むことは無いと判断したのだろう。 『皆、飛ぶよ!』  キノトイがそう叫ぶと、全員が同意した。  彼女らは足を曲げ、ジャンプする直前のような形で、離陸の姿勢をとる。  (エルフライドは飛行に限らず、全ての操縦はイメージによって賄われる。通常の行動は体を動かすのと大差が無いが、問題は飛行だ。翼の無い人間は、誰しも空は飛んだことが無い。だが、それをイメージする。〝学習装置〟を経た私達なら、それが出来る)  キノトイ達は、重力の喪失した世界。それと、背中を何者かの手によって押し出される感覚をイメージしていた。  すると、五機のエルフライドの周辺が、蜃気楼が発生したかのように歪みだした。  蜃気楼のようなソレは、空間の歪曲ヘイズだ。周辺、一キロ圏内では、凄まじい電磁波が放出されていた。  実際、電光中隊の大人組がいた体育館や廃校では、電磁波によって過電流が発生し、電子機器の類いは漏れなくショートしていた。  ババババッと至るところで小さく空間が爆ぜる音がした。僅かに砂埃が舞う。  五機のエルフライドが今にも飛び立つ、そんな時だった。 『やめなさい』  無機質なシトネ・キリの声音が、キノトイ達の耳元に届いた。      キノトイ達が視線を向けると——そこには、体育館の壁穴から姿を現した、二機のエルフライドが。  シトネと、ベツガイ・サキの乗ったエルフライドだった。  それを見たキノトイ達は身構えるが、唯一セレカだけは歩み出た。 『シトネ、お前も来い!』  セレカが叫ぶように説得を開始した。 『私達はこのままじゃ軍によってバラバラに引き離される! その前に——』  ソレに対し、シトネは突き放すように短く返答した。 『不可能』  その言葉に、キノトイ達は顔をしかめていた。 『解析した所、現在の装備と人員で向かって生存率は一パーセントも無い』 『それでも私達は、引き離されるくらいなら——』 『シトネ・キリの言う通りよ。アナタ達は——』 『うっさいわ! ミアをそそのかしたクソ野郎ベツガイはだまっとれ! 今私はシトネと——』  尚も続くセレカの説得に、キノトイが割って入った。 『シトネ……アンタは私達の味方なの?』 『味方。だから止める』 『違うわ……そうじゃない。アナタはどうしても私達の邪魔をするの!?』  キノトイのその言葉に、シトネは一瞬だけ静止した。 『そういう意味なら、私はアナタ達の敵』  その瞬間、シトネの乗るエルフライド周辺から、ババババッと破裂音が鳴り始めた。  それを見たキノトイは、即座に指示を飛ばす。  『構うな飛べ!』  キノトイがその言葉を発した瞬間。  バンッ! と、凄まじい破裂音がした。廃校や、体育館の窓がその衝撃で振動した。中には亀裂の入ったガラスもあった。  と、同時に——シトネの姿が消えた。キノトイ達は自身の耳に響くキーンッとした耳鳴りを感じながら、シトネの乗った機体を探した。 『——ィッ——ど——えたんや!』  セレカの言葉がキノトイ達の耳に届いたかと思えば、キノトイは体に走る衝撃を感じていた。  辛うじて彼女の視界に映ったのは、まるで瞬間移動するかのように高速移動するシトネの機体だった。   何が起こったのか、それを認知する時間すら存在しなかった。   △△タガキ・フミヤ視点  キノトイ・アネ以下、四名の反乱騒ぎから一時間後。  俺は、執務室で対面のソファに、シトネとベツガイを座らせていた。理由は単純、エルフライドに乗って「知識を得た」と主張するシトネと、「……話さなければならないことがあります」と、張り詰めた表情で申告してきた二人から、詳しい事情を聴取するためだ。  キノトイ達は、シトネが乗ったエルフライドによって数分で鎮圧された。その後、キノトイらはシノザキ達大人組によって拘束監視されている。  俺はとにかく、一体何故あの悪夢のような出来事が連続して起こってしまったのか、それが知りたかった。 「今はとにかく状況を精査したい。キノトイ達がエルフライドに乗ってからの話をしよう」  体育館の壁が完全に破壊された後。  エルフライドに乗ったキノトイ達は校庭へと走り、密集陣形を敷いて今にも飛び立とうとしていた。  そこへ——二機のエルフライドが歩み寄っていく。シトネとベツガイの乗った機体だった。   キノトイ達は警戒した様に身を屈め、直ぐに飛び立って逃げようとする。   しかし——先に飛翔したのはシトネのエルフライドだった。砂埃を巻き上げながら大ジャンプを繰り広げ、キノトイ達の上空を取ったかと思えば、空間が爆ぜるような音と共に空を蹴り上げる様な、あり得ない機動でキノトイ達に突っ込む。  キノトイ達は慌てて回避しようとしたが、間に合わなかった。  シトネのエルフライドはキノトイ達の陣形の中央部に着地し、そのまま一機のエルフライドへと蹴りを見舞った。  そして、その反動を利用してまた別の機体へと蹴りを繰り出す。  しまいには、目にも見えない速さで全ての機体へと投げ技を繰り出した。  キノトイ達は倒れたまま動かなくなり、戦闘不能状態——あえなく御用となった訳だ。 「エルフライドで、あの機動はありえない——」  そこまで話した所で、当時の光景を思い出したのか、ベツガイがシトネを何か恐ろしいものでも見るような目つきで見ていた。 「あなた一体、いくつ〝階層〟を降りたの?」  ベツガイの話に、俺は眉根を寄せていた。 「ベツガイ、〝階層〟とはなんだ?」  俺が問うと、ベツガイは素直に説明を始めた。 「〝階層〟とは——エルフライドを扱う上での〝学習装置〟の恩恵度合いを指します」  いまいち要領を得なかったので、詳しく話を聞くことにした。  エルフライドは操縦者が初めて乗った時、親切な事に操縦技能や様々な知識を教えてくれる〝学習装置〟と呼ばれる機能がついているのだとか。  ゲームのチュートリアルみたいなものかと思ったが、良く考えれば似て非なるものだ。  なんせ、知識が頭に直接なだれ込んでくるそうだからな。 「〝学習装置〟の受け止め方——感じ方は個人によって大分差異があります。私の場合は海の中を漂っている様な感覚がしました」 「海だって?」 「はい。そして、自分の意思で少しずつ潜るんです。そうすれば、知識がなだれ込んでくるような感覚が得られます」  知識が……雪崩れ込んでくる? 「はい、それがものすごい爽快感なんです。〝階層〟には要所要所で、門というか関所のような構造物があって、そこを抜ければ更なる深度の〝階層〟へと進めます。更なる深度の〝階層〟では、エルフライドに関する新機能……操縦において利便性が増す高度な知識が得られるんです。それを受ければ、前〝階層〟にいた時よりも、格段に知能と操縦技術が上昇します」  うーむ。ファンタジー系のゲームで例えるならば、〝階層〟式のダンジョンを潜って、その〝階層〟ごとに装備やランクアップ授与の恩恵が与えられる……みたいなことか?  もっとシンプルに考えれば、単純に〝レベルアップ〟みたいなものかもしれない。  ダメだ、あまりの話に……頭が混乱してきた。 「月光部隊は総じて、その領域の事を〝深層領域〟と呼んでいました」 「〝深層領域〟……良いネーミングセンスだな」 「というか、初めからそのように認識していました」 「は?」 「蜘蛛が誰から教わることもなく巣を張れるように……私達も、エルフライドに乗り、〝学習装置〟を体感した瞬間から、〝深層領域〟だという言葉で認識していました」 「それは……宇宙人がそういう風に作ったってことか?」 「そこまでは分かりません」  いかんいかん……とにかく、ベツガイが言ったことが全て本当なら、とんでもない技術だ。  〝学習装置〟を使えば、面倒で時間のかかる教育なんかしなくとも、操縦が可能となるわけだろ?  エルフライドは単なるロボットだと思っていたが……何だか当初よりも、人類が手にするには早すぎる技術だと感じていた。  そういえば……エマ達エンジニアは、合衆国でエルフライドを操縦した子供たちが、全く異なる操縦法を説明していたとか言っていたな。あれはそういうことか。  俺は質問を続けることにした。 「〝深層領域〟といったな? その場所にいる間、時間はどのくらいが経過している?」 「月光部隊ではその計測が行われました。体感では何時間単位でどれだけ長く〝深層領域〟にいても、現実世界では一律で五秒しか経過していません」  全く——本当にとんでいない技術だな。  夢を見ている時は長く感じていても、現実では一瞬という話と似ている。 「それで……全部でいくつ〝階層〟が存在するんだ?」 「それは分かりません、最大八階層に潜った唯一がセノ・タネコでした。月光部隊に居た科学者の見立てでは——」 「十二階層」    ベツガイの説明を遮るように、シトネがそう口にする。  それを聞いて、ベツガイは口をあんぐりと開けていた。   「何でアナタにそんなことを分かるの?」  ベツガイの問いに、シトネは平然とした様子で答えた。 「十一階層目でその知識を得られるから」 「ちょっとまって……アナタ、十一階層まで——潜ったって……言うの?」  ベツガイが驚愕のあまり、初めて見るような表情を浮かべていた。  うーむ……よく分からないがどうやら、とんでもないことのようだな。  シトネがエルフライドに乗った時、こんな動きがロボット兵器で可能なのかと俺は驚いたが……月光部隊だとか、軍の正規部隊に所属していたベツガイでもドン引きだったらしい。  シトネは合衆国語の件でも思ったが……やはり異質というか、別格だな。合衆国でも十一〝階層〟まで潜れた奴はいないのじゃないだろうか? 下手をしたらワールドレコードの可能性もある。 「どうやらベツガイとシトネは、〝階層〟の深度の影響か得た知識が違うみたいだな?」  聞いてみると、シトネは頷いていた。 「ほかにどんな知識が得られた?」  俺が尋ねると、シトネはいつもの無表情で驚くべく事を口にした。 「宇宙船の目的は——地球上のすべての脅威、つまり軍部を消し去った後。地球を居住可能な惑星へとテラフォーミングすることです」  テラフォーミング。つまり異星人による入植活動が始まるという訳だ。 「それが実行されると……今の人類はどうなる?」  恐る恐る尋ねてみると、残酷な答えが返ってきた。 「環境変化に耐えきれず、速やかに滅亡します。エイリアンへの敗北は、人類の滅亡と同義です」  俺は頭を抱えた。軍反対派の市民達が聞いたらなんと言うだろうな。  他力本願の奴らのことだ。何やっているのだ、馬車馬になって国民の為に戦え! と、言い出すかもしれないな。 「しかし、何でこんな回りくどい事をする? 宇宙人の技術なら直ぐにでも俺たちを滅ぼせるんじゃないのか?」 「現在、宇宙船にて存在する全てのエイリアンは、活動停止コールドスリープ状態にあります。そもそも、通称〝宇宙勢力〟と呼ばれる存在は非常に慈悲深い性質を持ちます。他の惑星の生態系を破壊するようなことは望んでいません」 「は?」  慈悲深い? なら、なぜエルフライドは地球中の軍基地を焦土と化すような真似をするのだ?   「現在、地球上のすべての軍基地に攻撃するように行動しているのは、宇宙船の〝人工知能〟によるものです」  人工知能……SF作品御用達の技術のことだ。地球でも現在開発が促進されているが、実用化に至ったという論文は発表されていない。 「そもそも、宇宙船にいる通称エイリアンと呼ばれる生命体は現在、人工知能が地球へ入植活動を実施している実態を知りません。宇宙船とエルフライドを操っているのは人工知能です」  人工知能が命令を曲解……か。ナスタディアのSF映画で似たような話があったな。 「人工知能は現在、通称エイリアンと呼ばれる生命体の命令を曲解し、暴走しています。人工知能には『攻撃意思の無い生命体に危害をくわえてはならない』制約があるので、最適効率な侵略活動が行えないでいます」  誓約……ロボット三原則みたいなものか?  それがあって人工知能たちは本気を出せず、ちまちまエルフライドで軍部だけを的にしていたのか……。  道理で一般市民は攻撃されないわけだ。  いや、しかし待てよ? 俺は叔父さんやエンジニアから、エルフライドには干からびたエイリアンが乗っていた旨を聞かされたのを思い出した。  ミシマ准尉の手記にもそのように記載があったはずだ。 「ちょっとまて……エルフライドに乗っていた干からびたエイリアンは何だ?」 「あれは人工知能が開発した、短時間で死亡する〝有機生命〟です。『生命に危害を加えてはならない』という制約の為、人工知能自身がエルフライドを操縦して人類を殺戮する事はできません。その為、学習装置で洗脳した、自分たちの都合のいい有機生命を活用し、地球の軍隊を攻撃しています」   つまり、学習装置とやらは洗脳道具だったわけか?  しかし、そんなもの使ったのに、なんで少女らがピンピンとしていられる。 「なあ、お前らは洗脳されないのか?」 「問題ありません、操られている有機生命はまっさらな状態で嘘の歴史をインプットされます。私達は最初から自己の歴史と認識を持ち合わせているので、〝学習装置〟による洗脳は起こりえません」   それを聞いて安心したが……俺の疑念は既に、別の部分に移っていた。 「しかし、何故〝キー〟が無いのにキノトイ達はエルフライドに乗れたんだ?」  俺の疑問に、シトネは再び衝撃的な事を言った。 「セノ・タネコが手引きしたのだと思われます」 「な、なにを言ってるの!?」  ベツガイが思わず立ち上がる。シトネはベツガイを横目に、説明を続けた。   「私の体験した深層領域では、全エルフライドの搭乗記録の閲覧が可能です」 「……全エルフライドの?」 「はい。そこにアクセスすれば、記録が残ってました。セノ・タネコの精神は〝八階層〟で閉じ込められたままです。外にいる本体、茫然自失状態のセノ・タネコとリンクを図り、エルフライドの〝コックピットの開放〟と〝操縦の許可〟を行使したのだと思われます」  は? えーと、つまり……深層領域に取り残されたセノ・タネコの精神が、生身のセノ・タネコと交信して——みたいな感じか?  遠隔操作……生身の人間が? 「そんな事が可能なのか?」 「セノ・タネコの体内には既に〝キー〟が出現しているため、可能です。しかし、体内に未知の物質が出現した為に、それほど長く生命活動を保持することは出来ないでしょう」  そういえば——エンジニア連中はコックピットにいた干からびたエイリアンの体内には赤い結晶体、〝キー〟が存在すると言っていたな。  それが地球人であるセノ・タネコの体内にも出現したってことは——エルフライドとは、人体にそこまで重大な影響を及ぼすのか? 「なあ——それって……どれくらい、もつんだ?」 「四か月、持てばいい方だと思われます。エルフライドの搭乗を続ければ寿命はもっと縮まります。アネ——キノトイ候補生達にも今回の搭乗で〝キー〟の出現が見込まれました。彼女らは一年ほど猶予があります」  ベツガイが顔を覆って俯いた。俺も稲妻に当てられたかの様な衝撃を受けていた。  放っておけば彼女らは——キノトイ達はあと一年以内に死んでしまうという事か?   「何とか出来ないのか?」 「方法はあります」  シトネは無表情のまま、絶望的なことを口にした。 「宇宙船に行けば〝キー〟を安全に除去する装置があります」 「って、ことは……宇宙船まで行かなきゃいけないってことだよな?」 「はい。宇宙船技術ならば可能なハズです」  しばらく顔を伏せ、黙っていたベツガイが勢いよく顔を上げた。   「それをすれば——みんなは助かるの!?」 「進行度合いにもよる。しかし、現状ではまだまだ間に合うと思われる」 「指揮官、お願いします! 私をエルフライドに乗らせてください!」  セノ・タネコを救えると聞いて、ベツガイが喰いついてきた。  俺は興奮する彼女を手で制する。   「奴らの戦力はどの程度ある?」 「宇宙船では、現在もエルフライドの製造が行われています。おそらく保有数は七千機以上。現時点でまとまにぶつかれば勝算はゼロパーセントです。しかし——人工知能が作ったインターフェースは〝深層領域〟を三〝階層〟までしか潜れません。我々の戦略と武器次第では、敵を撃破しなくとも宇宙船に侵入するくらいなら出来るかもしれません」 「潜入……か。なあ、シトネ」 「はい」 「人工知能とやらを破壊すれば……それがもし可能なら、どうなる?」  俺が聞くと、シトネは平然した表情で答えた。 「全世界の、人工知能が操作するエルフライドは機能を停止します」  全世界のエルフライド……が、か。  それを聞いたベツガイは、尚更懇願するように俺に縋ってきた。 「指揮官、お願いします! 私を——」 「もういい」  ベツガイの言葉を遮った俺は、ゆっくりとソファから立ち上がった。  そして、彼女らに背を向けながら——。 「全員集めろ。会議をするぞ」